キダチハマグルマ(木立浜車)
基本情報
キダチハマグルマ(木立浜車)は、キク科キダチハマグルマ属(Senecio属、ただし最近の分類ではJacobaea属に再編されることもあります)に属する植物です。学名はSenecio scandens var.hakonensis(またはJacobaea scandens var.hakonensis)とされます。海岸近くに自生することが多く、その名の通り、木のように立ち上がる性質を持つことから「木立」の名前がついています。また、黄色い花を咲かせる様子が、車輪のように見えることから「浜車」という名前が付けられました。
日本国内では、本州、四国、九州の海岸や、それに近い丘陵地に分布しています。特に、太平洋側でよく見られますが、日本海側にも生育しています。
特徴
形態
キダチハマグルマは、一般的には高さ1メートルから2メートル程度まで成長する、比較的大きくなる多年草、あるいは小低木状の植物です。茎は木質化し、枝分かれしながらしっかりと立ち上がります。葉は互生し、長さ5センチメートルから10センチメートル程度で、卵形または広披針形をしています。葉の縁には粗い鋸歯(ギザギザ)があり、表面はやや光沢があり、裏面には毛が密生していることもあります。秋になると、葉の色が紅葉する様子も美しく、景観に彩りを添えます。
花
開花期は主に夏から秋にかけてで、8月から10月頃にかけて、鮮やかな黄色の頭花(とうか)を多数咲かせます。頭花は、直径1センチメートルから2センチメートル程度で、舌状花(ぜつじょうか)と管状花(かんじょうか)から構成される、キク科特有の花です。舌状花は放射状に並び、花弁のように見えます。その黄色い花が、枝先に集まって咲く様子は、遠くからでもよく目立ち、夏の終わりから秋にかけての海岸沿いの風景を華やかに彩ります。
果実
花が終わると、痩果(そうか)と呼ばれる種子をつけます。痩果には、タンポポのように冠毛(かんもう)と呼ばれる白い綿毛が付いており、風に乗って遠くまで運ばれ、繁殖します。この冠毛のおかげで、海風に強く、海岸のような厳しい環境でも種子を広げることができます。
生育環境と生態
キダチハマグルマは、その名の通り、海岸の砂地や岩場、崖地などに自生しています。潮風や強い日差しにも耐えうる丈夫な性質を持っています。また、海岸沿いの林縁や、日当たりの良い丘陵地にも見られます。日当たりの良い場所を好みますが、ある程度の半日陰でも生育可能です。水はけの良い土壌を好みます。
生態的には、沿岸部に適応した植物であり、その生育範囲は、海岸線の環境によって影響を受けます。強い日差しと塩分を含む風という、植物にとっては厳しい条件の中で、たくましく生育する姿は、自然の逞しさを感じさせます。
利用
観賞用
キダチハマグルマの鮮やかな黄色の花は、観賞用としても魅力的です。庭園や景観植物として植えられることもあります。特に、和風庭園や、海岸風の庭造りに適しています。夏から秋にかけての開花期には、庭を明るく彩り、季節感を楽しむことができます。
その他
伝統的な利用法としては、民間療法で利用されることもあったようですが、現代においては、その利用は限定的です。薬用としての確かな効果が証明されているわけではありません。
栽培・手入れ
植え付け
キダチハマグルマは、比較的丈夫で育てやすい植物です。日当たりの良い場所を選び、水はけの良い土壌に植え付けます。地植えの場合は、植え付け時に堆肥や腐葉土をすき込んでおくと、株の生育が良くなります。
水やり
地植えの場合、根付いてしまえば、特に頻繁な水やりは必要ありません。乾燥にも比較的強いです。鉢植えの場合は、土の表面が乾いたらたっぷりと水を与えます。過湿は根腐れの原因となるため、注意が必要です。
肥料
生育期(春から秋)に、緩効性の化成肥料を少量与えるか、液体肥料を月に1〜2回程度与えます。ただし、肥料を与えすぎると、葉ばかり茂って花つきが悪くなることがあるので、適量にとどめることが大切です。
剪定
花が終わった後に、伸びすぎた枝や混み合った部分を剪定すると、風通しが良くなり、病害虫の予防にもなります。また、株姿を整えることで、より美しい景観を保つことができます。春先に、前年に伸びた枝を整理するのも良いでしょう。
病害虫
比較的病害虫には強い植物ですが、風通しが悪いと、うどんこ病などの病気にかかることがあります。また、アブラムシが発生することもあります。定期的な観察と、風通しを良くする剪定で予防します。
まとめ
キダチハマグルマは、海岸の厳しい環境にたくましく根を下ろす、黄色い花が美しい植物です。その名前の由来となった「木立」と「浜車」という特徴は、この植物の生態をよく表しています。夏から秋にかけての開花期には、辺り一面を明るい黄色に染め上げ、訪れる人々の目を楽しませてくれます。丈夫で育てやすいことから、観賞用としても人気があり、海岸風の庭造りや、景観植物としての活用も期待されます。日当たりの良い場所と水はけの良い土壌を好みますが、一度根付けば比較的手間がかからず、自然な姿を楽しめる植物と言えるでしょう。
