ウバメガシ(姥目樫)の詳細とその他
基本情報
科名・属名
ブナ科コナラ属(Quercus)
和名
ウバメガシ(姥目樫)
学名
Quercus phillyreoides
原産地
日本(本州、四国、九州)、朝鮮半島、中国
開花時期
4月~5月
実(果実)の時期
秋(10月~11月頃)
形態
常緑広葉樹。高さは10~20メートル程度になる。幹はしばしば不規則に曲がり、樹皮は黒褐色で、老木になると縦に裂け目が入る。葉は互生し、革質で厚く、長さ3~7センチメートル、幅1~2.5センチメートル。先端は鋭く尖るか、鈍く丸みを帯び、縁には細かな鋸歯がある。表面は光沢があり、裏面は灰白色を帯びる。若葉は赤みを帯びることがある。雌雄同株で、雄花序は新枝の葉腋から垂れ下がり、黄褐色。雌花序は新枝の先端にあり、小さな緑色。果実は堅果(ドングリ)で、翌年の秋に成熟する。殻斗(帽子)は cupula と呼ばれ、全体を1/3~1/2程度包む。
特徴と生態
葉の特徴
ウバメガシの葉は、その名の由来とも関連が深い。肉厚で光沢があり、表面が滑らかなため、乾燥に強く、海岸沿いの強風にも耐えることができる。この葉の質感が、年老いた女性の顔の肌に似ていることから「姥目樫」と名付けられたという説がある。また、裏面が灰白色を帯びているのも特徴的である。
樹皮と成長
樹皮は黒褐色で、若いうちは滑らかだが、成長とともに縦に裂け目が入り、ゴツゴツとした質感になる。これは、樹木が年輪を重ねるにつれて起こる一般的な変化である。ウバメガシは比較的ゆっくりと成長するが、その丈夫さから長寿の樹木としても知られている。
開花と結実
開花は春、4月から5月にかけて行われる。風媒花であり、風によって花粉が運ばれる。受粉後、果実(ドングリ)は夏を経て秋に成熟する。ドングリは食用にもなり、アク抜きをして食べることができる。ただし、他のドングリに比べてアクが少ないため、比較的容易に調理できる。
生育環境
ウバメガシは、海岸近くの暖帯林に生育することが多い。日当たりの良い場所を好み、痩せた土地や乾燥した土地にも適応する。特に、潮風に強く、防風林としても利用される。しかし、内陸の肥沃な土地にも生育し、山地の日当たりの良い斜面などでも見られる。
利用と文化
木材としての利用
ウバメガシの材は、非常に硬く、耐久性に優れている。その密度は高く、燃えにくい性質を持つ。このため、古くから建築材、家具材、器具材として利用されてきた。特に、その堅牢さから、寺社仏閣の建材や、農具、船の材料などにも用いられた。
燃料としての利用
ウバメガシの最大の特徴とも言えるのが、その燃料としての価値である。材は非常に硬く、密度が高いため、長時間燃え続ける。しかも、火力が高く、煙が少ないという利点がある。このため、古くから燃料として珍重され、特に備長炭の原料として極めて重要視されている。
備長炭
備長炭は、ウバメガシを原料として作られる最高級の炭である。紀州(現在の和歌山県)の特産品として有名で、その製法は秘伝とされることも多い。ウバメガシの丸太を窯で高温でじっくりと焼成することで、非常に硬く、炭化率の高い備長炭が作られる。備長炭は、その遠赤外線効果や、ミネラル含有量、調湿作用などから、調理用、飲料水の浄水用、消臭剤、さらには健康グッズなど、多岐にわたる用途で利用されている。備長炭の製造は、ウバメガシの価値を飛躍的に高めたと言える。
その他
ウバメガシの材は、その硬さから、伝統工芸品や木工細工の材料としても利用されることがある。また、その風貌から、庭木としても観賞されることがある。特に、海岸に近い地域では、防風林や緑化木として植栽されることも多い。
名称の由来
「ウバメガシ」の名称は、前述の通り、葉の質感が年老いた女性の顔の肌に似ていることから「姥(うば)」という言葉が当てられたという説が有力である。「目樫(めがし)」は、椎(しい)の木に似ているが、それよりも劣るという意味で「目」がつき、さらに「樫」が加わったものとも言われる。あるいは、葉の縁の鋸歯が細かいことから「目」がつき、「樫」となったとも考えられる。
類似種との識別
アカガシ(赤樫)
アカガシ(Quercus acuta)もブナ科コナラ属の常緑広葉樹で、ウバメガシと混同されることがある。アカガシの葉は、ウバメガシよりもやや細長く、縁の鋸歯もやや粗い。また、葉の裏面は白色ではなく、褐色を帯びることが多い。材の質もウバメガシに比べてやや軟らかい。
イチイガシ(一位樫)
イチイガシ(Quercus gilva)も同様に常緑広葉樹である。イチイガシの葉は、ウバメガシよりもさらに厚く、革質で、裏面は銀白色を帯びる。葉の縁には鋸歯がほとんどないか、あっても非常に不明瞭である。果実もウバメガシとは異なる。
アラカシ(粗樫)
アラカシ(Quercus glauca)は、ウバメガシよりも葉がやや大きく、鋸歯も粗い。葉の裏面は白粉を吹いたようになり、光沢が少ない。
まとめ
ウバメガシ(姥目樫)は、その名前の由来ともなった肉厚で光沢のある葉を持ち、乾燥や潮風に強いという特徴を持つ常緑広葉樹である。日本をはじめとする東アジアに広く分布し、海岸近くの暖帯林に生育する。材は非常に硬く耐久性に優れ、建築材や器具材として利用されてきたが、最も特筆すべきはその燃料としての価値である。特に、高級炭である備長炭の原料として、ウバメガシはその名を広く知らしめた。火力が高く、長時間燃え続ける性質から、調理や浄水など、様々な用途で活用されている。その堅牢さと独特の性質から、古くから人々の生活に深く根ざしてきた植物と言える。
